中1の息子に教える株式投資の始め方

40代の兼業投資家です。2019年の秋に株式投資を始める予定の息子「くま」に、投資の心構え、決算書の読み方、ビジネスモデル等をやさしく教えます。

INFORICHを買ったわけ②・・先行する中国の事情

小野妹子の似顔絵イラスト

1.タイムマシン経営

アメリカで流行したことは数年遅れで日本でも流行する。アメリカで上手くいったビジネスを日本に持ち込めばうまくいく可能性が高い」

このように考えて海外の成功したビジネスモデルを日本で再構築する経営手法がある。

 

タイムマシンで未来からビジネスモデルを持って来たかのようなので、この経営手法を「タイムマシン経営」と呼ぶ。ソフトバンク孫正義さんが命名したらしい。

 

INFORICHのビジネスは中国から持ち込まれた。中国でモバイルバッテリーシェアリングが普及していることを見た秋山社長が、数年後日本でも同様の状況になると予想してビジネスを始めた。これもタイムマシン経営だろう。

 

ただし、輸入元はアメリカではなくて中国だ。

なんとなく遣隋使や遣唐使を思い出す。

 

「数年後日本でもモバイルバッテリーシェアリングが中国と同様に普及する」という秋山社長の考えは、INFORICHのビジネスの出発点だ。

 

それなら我々もタイムマシンを使って未来を見てみよう。

つまり、現在の中国のモバイルバッテリーシェアリングの状況について確認する。これが最初の調査になる。現在の中国の状況は数年後の日本の状況を示しているかもしれない。

 

 

2.中国のモバイルバッテリーシェアリング

中国でモバイルバッテリーシェアリングを展開している主な企業には「怪獣充電」「竹芒科技」「小電科技」の3社がある。この3社でシェアの90%以上を占めている寡占状態のようだ。

その中の1社である「怪獣充電」は「Energy Monster」という企業名で2021年4月にNASDAQに上場した。上場時の中国でのモバイルバッテリーシェアリングのシェアは34%とトップだった。

現在は英語の会社名を「Smart Share Global」に変更している。

 

NASDAQに上場しているのなら簡単に情報が取れる。

Yahooファイナンスでも見ることができる。

 

 

すぐに2021年から2022年にかけて営業赤字だという事がわかる。

売上高も2022年は前年と比べてがっつり下げている。

 

株価も確認してみた。

 

 

上場した2021年4月が10ドルで、そこからずっと右肩下がり。2023年8月25日現在で株価は0.9ドルと逆テンバガーを達成している。壮絶な上場ゴール。

長期投資家なら吐き気を催すようなチャートだ。

 

中国の現状が将来の日本の姿とすれば、これがINFORICHの未来なのか?

この時点でINFORICHへの投資を中止しようと本気で思った。

 

 

3.中国のバッテリーシェアリング事情

しかし結果だけ見ても仕方がない。なぜ怪獣充電は赤字なのか、その原因を確認してから判断しても遅くない。

 

中国のモバイルバッテリーシェアリングについて検索したところ、こんな記事が見つかった。

私が重要だと考えた部分を以下に引用する。

 

「人流の多いバーや飲食店に充電宝を設置する場合、設置場所に対して利用料を支払う必要がある。いわゆる家賃に相当するものだ。特に人流が多く、数時間の滞在をするため充電宝の利用率が高くなるバーなどでは、利用料の40%から50%をバーに対して支払う契約になっている。

この負担も、充電宝企業にとっては重荷になっている。小電の場合、このような支払いが2018年から、1.05億元、7.15億元、10.13億元となっており、それぞれ営業収入に占める割合は25%、44%、53%にもなる」

 

ちょっと理論が飛躍するが、結論を先に書く。

怪獣充電の赤字の原因は企業間の競争の激化によるものだろう。

(もちろんCOVID-19による人流の低下も赤字の原因だろうが、それについては置いておく)

 

これは2020年の中国でのモバイルバッテリーシェアリングのシェアを示している。

現在は「街電」と「来電」が合併して「竹芒科技」になっているが、大勢は変わらない。かなりシェアが拮抗した寡占状態だ。

 

前回の記事に書いた通り、中国ではバッテリースタンドが人口400人に1台と飽和状態になっている。その状況でシェアが拮抗しているのであれば、消費者はどの企業のバッテリーをレンタルしたところで変わらない。どこに行ってもどの企業のバッテリースタンドが見つかるのだから。

バッテリースタンドを設置する店舗オーナーにとっても同じだ。分け前をたくさんくれる企業のバッテリースタンドを設置するだけ。どの企業のスタンドを置いても売り上げは変わらないのだから。

 

この事についてはINFORICHのIRにも問い合わせてみた。

意訳すると、「中国本土ではバッテリーシェアリングサービスが乱立している。とにかくバッテリースタンドの設置数を増やそうと各社が争っているのが怪獣充電の赤字の原因だと考えている」という回答をいただいた。

 

バッテリーのレンタルは差別化がむつかしい。安くて、借りやすくて返しやすいならどこのバッテリーでも同じだ。電気は電気でしかない。電圧に色は付かない。

 

 

4.日本のバッテリーシェアリングの事情

一方、日本の状況はどうか。

以下のグラフはINFORICHの会社説明会資料にある日本のバッテリーシェアリングのシェアだ。

INFORICHのシェア82%と圧倒的だ。

これは偶然でも何でもない。INFORICHを起業した秋山社長が「このビジネスは最初に圧倒的にバッテリースタンドの数を増やすのが成功のカギだ」と判断した結果だ。

圧倒的なほど数を増やすために、累計108憶円を集めてバッテリースタンドを設置していった。その結果がこのシェア率だ。

 

ここまでバッテリースタンドの密度に差がついてしまえば他社と比べて利便性が圧倒的に変わってくる。どこでも借りれてどこでも返せるという安心感は、INFORICH以外では得られない。

利用者にとってはその利便性が利点になる。バッテリースタンドを設置する店舗のオーナーにとっても利用者が利用しやすいバッテリースタンドを設置するしかなくなる。

 

独占企業は暴力装置だ。

独占企業の株を買うのは悪くないんじゃないか?

モバイルバッテリーシェアリングが現在よりずっと普及していくのなら、シェア82%のほぼ独占企業であるINFORICHに恩恵がない訳がない。。

 

そのように考えるようになった。

 

INFORICHの企業調査に本腰を入れることにした。

 

 

5.次回予告とおまけ

次回はINFORICHの香港での状況と、日本での競合について書きます。

 

 

孫正義 300年王国への野望」

陰謀論めいたタイトルですが、ちゃんとした本です。

起業に興味のある方はもちろん、ベンチャー大好き、マザーズ大好きな個人投資家なら読んでおいて損はないと思います。小さな企業を大きくしていくのはこんな感じなんだろうな、と分かった気になれます。