1.はじめに
ファブリカのSMS事業の成長を考える上での3つの検討事項
① 業務用SMSの市場が拡大するのは本当か?
② ファブリカはシェアを維持できるのか?
③ 利益率は維持できるのか?
今回は②について考えてみる。いくら市場が成長しても自社のシェアが下がっていくなら売上は増えない。過去、現在のシェアはどうなっているのかを確認し、未来のシェアを考えてみる。
2.SMSの市場の分類
まず国内の業務用SMSの市場だが「海外法人」「国内法人」「キャリア直」の3つの市場に分かれる。
「海外法人」とは、海外の企業が国内のSMS業者を経由して送るSMSだ。いちばん馴染みのあるAmazonの2段階認証はこれに含まれる。
「国内法人」とは、国内の企業が国内のSMS業者を経由して送るSMSだ。3つの市場のなかでいちばん大きく、成長もしている。
「キャリア直」とは、国内の企業がSMS業者を経由せず送るSMSだ。ファブリカ等のSMS業者を経由せずドコモやKDDI等のキャリアが直接送る訳だからコストが低く抑えられる。ここが伸びればファブリカやアクリート等の企業にとっては死活問題となる。
それぞれの市場規模の割合はこんな感じだ。
https://release.nikkei.co.jp/attach/602418/01_202012241415.pdf
ファブリカのSMSソリューション事業は上記の「国内法人」の市場のみでビジネスを行っている。競合のアクリートやAI CROSSは「海外法人」の市場にも大きく参入しているが、ファブリカは全く手をつけていない。
海外法人の市場の拡大や縮小はファブリカの業績とは無関係だ。
ここではまず「国内法人」の市場についてのみ考えてみる。
「キャリア直」の事については後日考えたい。
3.過去及び現在のシェア
国内法人のSMS市場は上位4社で寡占されている。
上位4社とは、NTTコムオンライン、ファブリカ、アクリート、AI CROSSだ。
グラフの通り上位4社で90%が占められている。
その中でもNTTコムオンラインとファブリカの占有率は高い。
2017年からのシェアの推移をグラフにしたのが上記だ。
シェアトップのNTTコムオンラインがじわじわシェアを落としていて、その分ファブリカがシェアを伸ばしている。
4.上位4社の特徴
国内業務用SMSの市場が4社によって寡占されているのだから、その4社の特徴を確認しておくことは有用だ。長くなると読むのがきつくなるから箇条書きで書く。
① NTTコムオンライン
・NTTコミュニケーションズの子会社
・正式名称は「NTTコムオンライン・マーケティング・ソリューション」
・業務用SMS以外に、データ解析事業やデジタルマーケティング事業も行ってる。
・それぞれの売上占有率は3分の1ずつ
・非上場企業
・社員は160名
・業務用SMSは「空電プッシュ」というブランド
・NTTグループの一員という信用がバックにあり、特に金融分野に強い
・金融分野のSMSのシェアは2020年度で61%と圧倒的
・情報サービス分野のシェアは53.8%、公共分野のシェアも30%とトップ
・選りすぐりの代販パートナーを5~9社/年で増やしてる
・直販は+22.4%/年で、代販パートナーは+33.6%/年で売上を伸ばしている
<私の印象>
NTTグループの一員であり、とても固い印象。成長市場に身をおいている企業なのにガツガツしていない。業務用SMSは3本柱のうちの1本という事もあるのか。
非上場企業なのであまり情報が得られない。
② ファブリカコミュニケーションズ
・名古屋の自動車鈑金塗装業から成長してきた企業
・業務用SMS以外にも、中古車販売業務支援事業やオートサービス事業等も行ってる
・業務用SMS事業の売上占有率は50%
・業務用SMSは子会社である「メディア4u」が行ってる
・「国内法人向け」専業、海外法人のSMSには参入していない
・「業務連絡」のシェア43%、「事前通知」のシェア40%、「督促」のシェア36%でそれぞれトップ
・「業務連絡」は人材派遣会社、人材紹介、コールセンターでのトップクラス企業を顧客にしている
・「事前通知」は人材派遣会社での面接日通知、中古車販売業者での車検切れ通知、保険会社での保険料支払い通知などで活用されてる
・「督促」は家賃保証会社や不動産業者が顧客
・様々なジャンルにまんべんなく顧客がおり、配信数が安定してる
<私の印象>
国内の様々なジャンルの企業にまんべんなく浸透してる。海外にも手を出さず国内向けのシェア向上に努めている。名古屋の板金屋からスタートしたからなのか、手堅く土臭い経営を行っている印象(褒めてる)。
③ アクリート
・2014年にSIerのインディゴからスピンアウト創業された
・国内SMS配信事業のパイオニア
・売上からみるとほぼSMS専業
・海外法人の売上が50%を占めている
・国内法人向けではポータルサイト「Yahoo!」の本人認証を行ってる
(2022年現在は行っていないよう)
・2022年3月よりベトナムのSMS配信サービス会社を子会社化
<私の印象>
上場時の社員数は10名だったというロックな企業。海外法人(海外アグリゲーター)への売上が半数を占めている。また、国内法人が海外向けに送るSMS配信サービスを行ったり、ベトナムへ進出したりと、視線がグローバル。M&Aにも積極的。
海外法人のSMS市場は国内法人向けのものと違って不安定で増減もある。また海外企業との競合もあるようだ。
④ AI CROSS
・海外経験の長い社長がSMSの日本国内での拡大を見越して創業
・業務用SMSは「絶対リーチ!SMS」というブランドで展開
・海外法人向けにも参入しており、その売上占有率は2020年度で37.5%
・プロモーション分野のSMSに強くシェア57%、その分コロナの影響が大きかった
・業界特化型コンサル会社を代販パートナーとしてニッチな業界に進出
・SMS以外に人材マネジメントサービス等に進出してるが、売上占有率はまだ1%程度
<私の印象>
寡占企業の一角だが4番手で、じわじわシェアを削られている。HYOUMAN BOXという人材マネジメントサービスを開始し、SMSにこだわらない事業を展開しようと考えているようだ。
AI CROSSのサイトは社長の原田典子さんの写真であふれている。AI CROSSを調べようとすると100回以上そのお顔を拝見することになる。ちょっと前に出過ぎじゃないかと。それが許されるのはアパの社長だけだと思ってた。
◎まとめ◎
信用とブランドのNTTコムオンライン
泥臭く拡大してるファブリカ
海外に軸足を移し始めているアクリート
社長のキャラが立ってるAI CROSS
ただの私の印象です。そしてポジショントークです。
5.なぜ寡占状態が維持されているのか
成長が著しい市場には多数の企業が参入しレッドオーシャン化するのが一般的だ。しかし業務用SMSの市場は寡占状態が維持されている。
それはなぜなのか?
AI CROSSの資料には「規模の経済性が参入障壁になってる」とある。
SMS配信サービスは、ドコモやソフトバンクなどの通信キャリアへ通信料を支払う必要がある。その通信料にはボリュームディスカウントが働くため、小規模でしかスタートできない新規参入者はコストが高くなってしまうらしい。
「小規模でSMS配信事業を行う場合は、キャリアから直接回線を引くより大手4社から孫引きして回線を引くほうがコストが低く抑えられる。これが参入障壁になる」と、AI CROSSの社長が動画で言ってた。
あとは、市場がまだまだ小さくてうま味が小さいという理由もあるのだろう。
「業務用SMS大手4社」と言っても従業員50~150人程度だ。本当に美味しい市場ならばその数十倍の体力を持つ企業が参入してくるだろう。そうなると巨人に踏み荒らされて草も生えないような市場になってしまう。
今後SMSの市場が更に拡大していけば、巨人を引き付けてしまうリスクはあると思う。
6.次回予告
また長くなってしまった。
次回は「キャリア直」という脅威について書きます。
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