1.キャリア直とは何か
ファブリカやアクリートなどが提供している国内業務用SMSサービスは、ドコモやauなどのキャリアの回線を利用して個人に送られる。
上の図はファブリカの決算説明会資料だ。
ファブリカは顧客企業のシステムに接続してクライアント顧客の電話番号を取り出し、ドコモやソフトバンクなどのキャリア回線を利用してSMSを送信している。
業務用SMSの仲介を行っている訳だ。
一方、ファブリカ等のSMS仲介人を間に挟まず、ドコモやソフトバンクなどのキャリアが直接SMSを配信するのが「キャリア直」だ。
これはキャリア直サービスであるKDDIの「Message Cast」の図だ。
auユーザーには自社の回線を利用して送信し、それ以外のスマホユーザーには他社の回線を利用して送信する。ファブリカ等の仲介業者は登場してこない。
自社の回線を使う分だけコストが少なくて済むので価格競争になれば有利だ。顧客企業がダイレクトにキャリアに結びついてしまえば、ファブリカ等のSMS仲介業者に出る幕はない。この状況が進めばファブリカにとって死活問題となる。
というわけでSMS配信サービスにおけるキャリア直の今後について調べてみた。
2.キャリア直が急増している理由
前回の記事にも載せたグラフだが、キャリア直の市場は2019年より急激に増加している。
2018年以前はキャリア直の市場がほとんど存在していなかった。それはドコモ等のキャリアが他社のスマホユーザーにSMSを直接送る方法がなかったからだ。
しかし2019年に「法人向け公式アカウントサービス制度」というものが開始された。これによってキャリアが自社以外のスマホユーザーにも直接SMSを送れるようになった。
KDDIは「KDDI Message Cast」、ソフトバンクは「SoftBank Message Link」というブランドでそれぞれサービスを展開している。
NTTドコモについては子会社のNTTコムオンラインがその地位を占めているようだ。
KDDIは新生銀行やじぶん銀行での本人認証に、ソフトバンクはYahoo!の本人認証に導入されている。
・・ん?Yahoo!の本人認証はアクリートがやっていたはずだけど。。。
確認したところ、2021年3月に出たアクリートの有報には「主な販売先」としてYahooがあったが2022年3月の有報では消失していた。どうやらその頃にソフトバンクが自前で2段階認証をやるようになったようだ。
前回の記事は嘘を書いてしまった。直しておくか。
3.キャリア直はコスト的に有利だが無双せず
キャリア直は自前の回線を使うことが出来るのでコスト的に有利だ。その有利な立場を利用してファブリカやアクリートのシェアを奪い、業界内で無双しててもよいはずだ。
しかし実際はそうなっていない。
NTTコムオンラインなどは以前よりその有利な立場に立っていながらシェアを落としている。
理由はおそらく「面倒な割には大して儲からない」からだ。
4.小さくてちょっと面倒くさい
業務用SMSを導入するためには、まず会社のシステムに繋ぐ必要がある。
必要なタイミングで必要な電話番号を引っ張ってきて、必要なメッセージを載せてSMSを送る。これはちょっと面倒くさい。
YahooやAmazonの2段階認証程度なら楽そうだ。文章は単純な数字の羅列のみだし、アクセスされた時に送付するだけでいい。
しかし家賃の督促や人材派遣会社の業務連絡だとそうはいかないだろう。長い文章で、現在どのような状況か、次にどのような行動を取ればいいかなどを個人に合わせて作文しなくてはいけない。
そのくせ大して儲からない。
SMSは1通あたりの単価が低い。配信数も中小企業ならそれほど多くならないだろう。そうなれば手間の割には売上が増えない。
小さな企業ひとつひとつに営業をかけ、システムを導入し、アフターフォローも行っても大した売上にならない。そうであればNTTやKDDIなどの巨大企業にとってはとても割に合わない仕事だ。
だからこそやる気がなく、NTTコムオンラインのシェアが上がらないのだろう。
そういう小さな仕事をひとつひとつ泥臭く拾っていけるのは小さな企業だからこそだ。
巨人にとってコンビニのおにぎりは何の腹の足しにもならないが、こびとさんなら1個でも数人が満腹になる。
大きな船は浅瀬で漁ができない。巨大なマグロはシラスを餌にしない。
このあたりがファブリカの生存空間であり、成長余地になるのだと考えている。
5.まとめと次回予告
・キャリア直とはキャリアが直接業務用SMSを送る事
・業務用SMSはそれほど美味しい市場ではない
・市場が小さいのでキャリア直はそれほど大きな脅威にならない
次回は最も重要な話「利益率は維持できるか」について考えた事を書きます。
<おまけ>
ウクライナでの戦争ではゼレンスキー大統領の有能さが目立ってます。
その行動力、胆力、交渉力、スピーチの上手さはウクライナにとって大きな力になっていると思います。あそこまでの傑物を最大級の国難で得ることができたウクライナは強運だ、とすら思えます。
だからこそ、この本をお勧めしたい。
広告代理店が民族紛争をプロデュースしたボスニア紛争のドキュメンタリー。情報を上手く操作しセルビアが悪だという印象を決定づけ戦争の行方まで決めたという話。
民族紛争と一方的な侵略戦争は違いますが、参考にはなるかと。