株の需要が湧いてくる?/一部昇格とコバンザメ投資法
人気に関わらず需要が湧いてきて株価が上昇する状況があるよ。
という話の続き。
1.一部に昇格が決まると
東京証券取引所に上場されている企業は3600社以上あるが、そのなかで2130の企業が東証一部に上場されている。東証二部は494社、マザーズは276社、JASDAQ(ジャスダックと読む)は736社だ。
マザーズとJASDAQは、出来たばかりの若くて小さな会社が上場する市場だ。これらの若い会社が順調に成長していくと、やがて二部や一部に昇格する事もよくある。
このあたりの日本の株式市場の仕組みについては以前書いた。
マザーズやJASDAQに所属していた企業が一部に昇格すると、その株の需要が増える。その結果、株価が上がることがある。
それを利用した投資法が存在する。「コバンザメ投資法」というやつだ。
2.コバンザメ投資法とは
コパンザメは知っているだろう。頭部に吸盤が付いている小型のサメで、ジンベイザメなどの大型のサメの腹に吸着して生活するサメだ。巨大なサメと一体化することで天敵から身を守りつつ、おこぼれも頂いて楽しく生活するサメだ。
このサメと同じように、巨大な資金と一緒に動いてそのおこぼれを頂く投資法を「コバンザメ投資法」という。
その具体的なやり方を順番に書く。
マザーズやJASDAQに上場している企業が一部に昇格すると、その企業はTOPIXを構成する事になる。TOPIXとは、東証一部に上場している企業の時価総額から算出される数字だ。東証一部に昇格するということは、TOPIXの指数を構成する一部分になることでもある。
このTOPIXに属する企業の株をすべて買う方法がある、という話を書いたのを覚えているだろうか?ETFというやつだ。
もう一度書くのはちょっとしんどいので、覚えていない方はこの記事を読んで下さい。
東証一部に昇格した企業はTOPIXの一部に組み込まれる。そうなるとTOPIXに連動したETFは、新しく昇格した企業の株を買わなくてはならない。
つまり、昇格することで自動的に株の需要が湧いてくる。そうなると株価が上がる。
ならば先に一部に昇格しそうな株を買っておけば、昇格と同時に株価が上がって儲けることが出来る。これがコバンザメ投資法だ。
つまりコバンザメ投資法とは、ETFをジンベイザメ、自分をコバンザメに例えているわけだ。
3.コバンザメ投資法を検証してみる
東証一部昇格によってどれほど株の需要が湧いてくるのか検証してみた。
一部昇格になった企業の時価総額を1,000億円としよう。
東証一部に所属する2130社の時価総額の合計は、5月31日の段階で608兆9000億円だ。
608兆9000億円の中に1000億円の企業が足されるわけだから、新しく昇格した企業のTOPIXに占める割合は
1000億円 / 609兆円 × 100 = 0.0164%
となる。
一方、TOPIXと連動したETFは野村證券が運営するものを筆頭に6つある。その6つを合わせた総額は、5月31日現在で18兆3710億円だった。
ETF以外にもTOPIXと連動した「インデックスファンド」というものもあるが、こちらは数十億円~数百億円の額しかない。
よってTOPIXに連動したETFとインデックスファンドを合わせ、ざっくり19兆円あると計算する。
19兆円のうち、新しく1部に昇格した会社の時価総額は0.0164%を占めるわけだから、
19兆円 × 0.0164% × 1/100 = 31億1600万円
つまり時価総額1000億円の企業に、31億1600万円の需要が湧いてくるわけだ。
この金額は、時価総額の3.116%に相当する。
時価総額1000億円で有名な企業を探してみると、1020億円の「東京ドーム」があった。プロ野球の巨人軍本拠地、東京ドームを運営している企業だ。
この東京ドームの5月31日の出来高(1日あたりの株式取引額の合計)は3億4800万円だった。31億円分の株を買うためには、10日分の売り注文を全て買い占める必要がある。
それなら株価も上がりそうだ。
ちなみに、この一部上場による需要のインパクトは時価総額に左右されない。
なぜなら、時価総額2000億円の企業が昇格した場合は
2000億 / 609兆円 × 100 = 0.0328%
19兆円 × 0.0328% × 1/100 = 62億3200万円。
62億3200万円 / 2000億円 × 100 = 3.116%
このように、ETFの買いは時価総額に関わらず3.116%になるからだ。
実際に計算してみると、けっこう大きな影響がありそうな数字が出てきた。
4.実際に一部昇格した企業の株価はどうなっているか
需要の計算は以上だ。
理屈ではなく、実際の株価はどう動いているのだろうか?
2018年に一部昇格となった企業は48社ある。そのなかのいくつかのチャートを実際に見てみよう。
チャートの中にある赤い矢印が昇格したタイミングだ。
9/27昇格 アイ・アールジャパンホールディングス
10/31昇格 Casa
12/7昇格 スマートバリュー
そして私の持ち株でもあるプレミアグループ
12/25 昇格
12/11に昇格 南陽
適当に5つの企業のチャートを載せてみた。赤い矢印が一部昇格のタイミングだ。
どうでしょう?上がっているやつはありますか??
昇格と同時にMSワラントの発行を発表したプレミアグループのチャートは論外としても、明らかに上昇している企業はないですね。
一部昇格した銘柄は以下のリンクに全部載っています。
根性のあるひとは是非、他の企業も確認してみてください。
5.どうしてこうなるか
需要の計算通りなら株価は上昇しても良さそうだ。でも、実際は全然上昇していない。
これはTOPIX連動のETFを運用している人が、上手に買いを入れているからだろう。
TOPIX連動ETFと言っても、昇格したその日に株を買わなければいけないわけではない。その前後に買えば十分だからだ。
採用された企業にとっては3.116%のが買われるわけだけど、TOPIX全体にとっては時価総額1000億円の企業の株など0.0164%に過ぎない。0.0164%の影響しかない株など、TOPIXの連動にはほとんど影響しない。ただの誤差以下だ。
極論を言えば数年間買い忘れていても誰も気付かないだろう。
だから安い時に買っておけば問題ない。そんな風にETFは運営されていると推察する。
コバンザメ投資法とは2000年頃に「J-Coffee」という方が開発した投資法だ。
2000年頃にはインデックスファンドのマネージャーもバカ正直に昇格した株を買っていたのだろう。
そんな事をする必要がないことに気付いて、現在は一部昇格による需要はほとんど株価に影響しなくなっている。
コバンザメ投資法は、もうその有効性が無くなった過去の投資法だと言えるだろう。
↓ まだ本は売っていますね。参考までにどうぞ。