目の前のビッグチェンジに気付かないこと
1.医薬品、という商品
病院で出される「お薬」とは、とても変わったタイプの商品だ。
処方箋がないと買えない、医師の診察を受けてからじゃないと買えない、保険が効くので少なくとも7割引で買える。生活保護受給者はタダでもらえる。
そして何よりも、商品を選ぶ人とお金を払う人が別だという特徴がある。
薬を飲むのは消費者(=患者)だ。お金を払うのも(3割だけだが)消費者だ。
しかし薬を選ぶのは消費者ではない。選ぶのは診察した医者だ。
「選ぶ人とお金を払う人が別」
これはちょっと珍しいタイプの商品だ。
しかし医者の方も好き勝手に薬を選ぶことはできない。
この薬は2週間分までしか処方できない、この薬は90日分まで処方できる。この薬の投与量は1日〇〇mgまでだ。この病気にかかっている人しかこの薬を処方できない。
そういう訳のわからないルールが無数にある。それらのルールを踏まえながら、医者は薬を処方する。
2.ジェネリックという選択
薬代を払うのは患者だが、3割だけだ。薬代の残り7割は、保険という形で国が払っている。
いくら国にお金があると言っても薬はなかなか高価だ。医療技術は年々進化しており、治らない病気も治せるようになってきた。そして医療技術の進化とともに、医薬品もどんどん高価なものが出るようになってきた。
たとえば小野薬品工業の「オプジーボ」という薬がある。オプジーボは肺がんや悪性黒色腫の薬だが、1瓶で73万円する。これを2週間毎に投与するわけだが、そうなると1年で約3,500万円かかってしまう。参考:高額薬剤と医療費 | 日本歯科大学校友会
ただでさえ高齢化が進んで病院に行くお年寄りが増えてきている。患者の数が増えて、一人あたりにかかる薬代も上昇している。その結果、日本の医療費は毎年約1兆円ずつ増えてきている。
そろそろヤバい、マジでヤバい。そんな風に国が考えるのは当然だ。
そんな流れで「ジェネリック医薬品」というものが強力に推められるようになった。
ジェネリック医薬品とは何か?
薬を開発するのはとても大変だ。長い研究開発期間と莫大な開発費がかかる。でもすごく良く効く薬が完成すれば、とても儲かる。その薬を売ることができるのは、その薬を開発したメーカーだけなのだ。完全に独占販売となるわけだから、値段もお高めにつけることができる。
しかし、独占販売ができるのは特許が切れるまでだ。莫大な開発費をかけても、20年から25年経てば特許が切れる。特許が切れたあとは、他の会社がその薬を作って売ることができる。
特許切れした後に他社が製造した医薬品のことを「ジェネリック医薬品」と呼ぶ。
ジェネリック医薬品の製造には「莫大な開発費」がかからない。だからこそジェネリック医薬品メーカーは薬を安く売ることができる。
3.ジェネリック普及という国策
ジェネリック医薬品を使えば、医療費を安く抑える事ができる。
しかし日本ではジェネリック医薬品の導入は遅れていた。かつてジェネリック医薬品は1割り程度しか使われていなかった。(ほぼ)同じ効果のもっと安い薬があるのに、高い薬が使われていたんだ。
すこしでも医療費を下げてたい国は、国策としてジェネリックを強力に推進した。
具体的な話をすると長くなるので省略するが、その手口はえげつないほどだった。ジェネリックを使わないと病院が立ち行かないほどに、保険の制度を変えたんだ。
その結果、10年ほどでジェネリック医薬品のシェアは激増した。
2018年9月には数量ベースで72.6%まで伸びた。
私は医療関係者なので、その変化を身をもって体験していた。
4.それがビッグチェンジだろ!!
ジェネリックへの移行、という医療業界の変化を直に体験していた。
しかしそのビッグチェンジは見逃していた。
世の中にはジェネリック医薬品専門メーカーという企業が存在する。
これは沢井製薬のチャートだ。
ゆっくりとだが確実に、株価は伸びている。気がつけば10倍以上になっている。
国が「2017年までにジェネリック医薬品を70%以上にする」と決めていたんだ。この数値が達成されれば、沢井製薬の売上がどのくらいになるか計算できる。
そして国は、法律を変えてこの目標を達成させるという力がある。
沢井製薬の成長は約束されていたんだ。
ただ、それに気付くだけでよかったんだ。
5.まとめ
目の前のビッグチェンジに気付かなかった。
それは、とても悲しい。