中1の息子に教える株式投資の始め方

40代の兼業投資家です。2019年の秋に株式投資を始める予定の息子「くま」に、投資の心構え、決算書の読み方、ビジネスモデル等をやさしく教えます。

2022年を振り返る⑤・・どうしてこうなった?

将棋の対局のイラスト

1.引き出される様々な教訓

前回、モビルスの株を買ってさんざんお金を減らした話を書いた。

ただ損をした事実を書いただけなのになかなか反響があった。とくに小型成長株を長期で触ってる投資家の魂に刺さってた感じがする。株はツラいのだ。

 

前回の記事を読んで、それぞれの立番で様々な教訓が引き出されたのではないかと思う。

 

「上場して日が浅い企業は需給の影響が大きいからファンダが効きにくい」

「小型成長株に逆風が吹く相場で買い向かったのがそもそも間違い」

損切りルールを徹底するべき。20%下げても持ち続けるなんてありえん」

「チャートに逆らって買うなんてどうかしている」

「ファンダにこだわり続けてる時点で既に負けてる」

「そもそも株なんてやるなインデックスを買っとけ」

 

自分でぱっと考えただけでこれだけ出てきた。教訓を募集したらいくらでも出てきそうだ。それぞれ有用な教訓なんだと思う。

 

しかし私はファンダメンタルを見て買ったんだ。ファンダを理由に買ったのにその失敗をファンダ以外のチャートや相場環境に求めるのは筋が通らない。違うレイヤーで議論しても噛み合わないし意味がない。

 

将棋に負けた時は棋譜を分析するべきだ。

対戦日の食事や体調管理は当然大事だ。しかし最終的に勝敗は将棋盤の上で決まったのだ。体調管理はとりあえず置いといて、どんな指し手が敗北につながったのかを分析する事は重要だ。

 

たとえ相場環境が悪くてもチャートが崩れていても、売上前年比+30%、営利前年比+35%の数字を続けて出していれば問題は無かったはずだ。

ビルスの株価が下落した理由はシンプルに、ARRの伸びが頭打ちになったことと、それを乗り越えるために人材投資を行い減益の予想を出した事だろう。

 

というわけで私の企業分析の何が間違っていたのか、何が足りなかったのかを考えてみた。

 

 

2.キャズムとは

2022年度2Qの決算説明会動画で石井社長は言っていた。

 

「新規顧客獲得がなかなか進まない。テキスト化が想定以下にしか進まない。アーリーアダプターの段階が終わってメインストリームに入り始めたが、キャズムに陥ってる」

 

この「キャズム」とは何か?

ご存じの方も多いと思うが、キャズムについて簡単に触れておく。

 

キャズムとは、新たな製品やサービスが世に出た際に、それが市場に広く普及するために超えなければいけない溝の事だ。

キャズム理論とは?キャズムが発生する理由、越えるための7つのポイント

 

例えばPayPayを思い出してくれればわかりやすい。

リリースされてすぐ試してみる人もいれば、いまだにコンビニでも現金しか使わない人もいる。

 

新商品は、新しいものならまず試してみるイノベーター、良さそうなら採用するアーリーアダプターの順番で受け入れられる。

その次にマジョリティに普及する。マジョリティは人口比の約70%を占める大きな層だ。マジョリティにも比較的早い人もいれば遅い人もいる。

アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間にある谷が「キャズム」だ。

 

キャズムの前に属する層には普及が早い。大した労力もなく広がっていく。

しかしマジョリティ以降には普及がなかなか進まない。良いものがすぐに受け入れられるとは限らないのだ。

メインストリームに入る前のキャズムを超えるために、PayPayは初期に莫大な赤字を垂れ流しながらポイント還元を行っていた。キャズムを超えるのはそれだけ大変なんだ。

 

ビルスの初期の高成長率は、アーリーアダプターまでの営業がイージーな部分に普及していくスピードだったと考えられる。

私は、キャズム以前の成長率がこのままのペースで数年後まで続くと判断していた。

 

キャズムを超えて普及を進めるためには労力がかかる。営業もカスタマーサクセスにも人員が必要だ。人員には採用コストも育成コストも人件費もかかる。

 

そうなればこれまで以上に販管費がかかって利益率が下る。

これがモビルスの中経の本質なのだろう。

 

 

3.コールセンターはBPOに投げられた

ビルスが成長していく上で困難な課題はもう1つある。

コンタクトセンターはBPOとして外部委託されている事が多いことだ。

 

国内企業のコンタクトセンターは8割がBPOとなっている。海外企業は5割が自社でコンタクトセンターを持っている事と比べても圧倒的にBPOが多い。

企業と顧客のコンタクトは重要だと認識されながらも、コールセンターはコストとして外注している企業が多いわけだ。その理由は既に書いた。

 

BPOに投げてしまった後は、改革へのモチベーションが下る。

そもそもコールセンターを掌握している部署が営業部じゃなかったりする。総務部とかそのあたりであれば、顧客体験を向上させて売上を伸ばそうというモチベーションは上がらないだろう。

 

企業と顧客をつなぐコンタクトセンターは顧客体験そのものであり、そもそもトップマネジメントの課題だ。アメリカの企業は9割が顧客体験を本職とするマネージャー(CXO)がいるらしい。その点、日本でCXOを置いている企業は1%にも満たない。

 

このような本質的かつ重要な案件は簡単に導入されることはない。

スマホにPayPayのアプリをダウンロードするのとは違う。

営業やカスタマーサクセスに人員が必要なのは当然だろうと思う。

 

逆に言えば、一度組み込まれてしまえばそう簡単に解約されないという利点はあるだろうけど。

 

 

4.まとめと次回予告

今回のまとめ

・将棋に負けた時は棋譜を読め。ファンダで失敗したならファンダで原因を探れ。

キャズム以前と以後は成長のスピードも成長のコストも全然違ってくる

・初期の成長率がずっと続くと考えるのは楽観的すぎる

・大きな案件ほどサービス導入には時間もコストもかかる。コンタクトセンターの改革は必然的に大きな案件になるため導入に人員が必要。

・お金がへるとツラい

 

次回予告

前回までは「何が起こったか?」。今回は「どうしてこうなった?」。

次回は2022年のまとめを書きます。いったん締めます。

 

今回の続き、「今後どうすればいいか?」は次の次に書きます。

 

 

今回の話に出てきた「キャズム」。

キャズムをどうやって超えるかという話がたくさん出てました。

投資家としては、キャズムを超えたあたりに買いを入れるべきなんだと。