きずなHD・・希薄化はあるか?(新中計②)
1.出店ペースの加速と資金
7月15日に新しい中計を発表したきずなHD。
出店ペースを上げながらも1ホールあたりの想定葬儀件数予想を下方修正、売上予想はほぼ横ばいながらも利益予想は上方修正。そんな内容の中計だった。
売上と利益について深堀りした記事を書くつもりだったけど、その前に増資のリスクについて考えてみる事にした。
増資やMSワラントは発行済株式数が増える。
利益が増えても発行済株式数がそれ以上に増えれば、一株あたりの利益は減少する。
一株当たり純利益を下げるので、増資やMSワラントは突然降って湧いた下方修正と同じか、それ以上に悪いニュースだ。だからほとんどの場合、株価は暴落する。
株価を暴落させ、株主を落胆させ、企業と株主の信頼関係を破壊する忌まわしき増資やMSワラント。なんでそんな事を企業は行うのか。
それはお金がなくなるからだ。
きずなHDが出店ペースを加速させるという中計を発表した。出店するにはお金がかかる。そのための資金は十分にあるのか?資金がなくなって増資やMSワラントに手を染めるのではないか?
ある程度経験を積んだ投資家ならこれは当然気になる。
という訳で増資やMSワラントなどの可能性について考えてみた。
2.キャッシュフロー計算書を”雑に”読む
その企業にお金があるかどうかはキャッシュフロー計算書に書いてある。
前期のキャッシュフロー計算書は以下の通りだ。
私は会計について詳しくない。細かいことはわからない。だから「雑に」読む。
2021年度のきずなHDは
① 前年度から513百万円くりこした。
② 本業である葬儀を行って1,754百万円稼いだ。
③ 銀行から1,139百万円借りた。
ここまでで3,406百万円のお金が手元に残った。
④ 期限が来た借金を471百万円返した
⑤ ホールが建つ土地のリース料等767百万円払った
ここまでで1,238百万円使った。手元には2,168百万円残ってる。
⑥ 新しくホールを出店するために882百万円使った
⑦ M&A(備前屋)するために176百万円使った。
ここまでで更に1,058百万円使った。手元には1,110百万円残った。
実際に残ったのは1,056百万円(⑧)。差額の54百万円はその他および誤差。
こんな理解でいいはず。
同じく2020年度のキャッシュフロー計算書を雑に読む。
① 前年度から696百万円くりこした。
② 本業である葬儀を行って1,211百万円稼いだ。
③ 銀行からはお金を借りなかった。代わりに106百万円の株を発行した。
ここまでで2,013百万円のお金が手元に残った。
④ 期限が来た借金を300百万円返した
⑤ ホールが建つ土地のリース料等646百万円払った
ここまでで946百万円使った。手元には1,067百万円残ってる。
⑥ 新しくホールを出店するために457百万円使った
⑦ M&Aはしなかった。
ここまでで更に457百万円使った。手元には610百万円残った。
実際に残ったのは513百万円(⑧)。差額の97百万円はその他および誤差。
もう1年さかのぼって2019年度のキャッシュフロー計算書。
① 前年度から477百万円くりこした。
② 本業である葬儀を行って1,233百万円稼いだ。
③ 銀行から4,101百万円借りた。
ここまでで5,811百万円のお金が手元に残った。
④ 期限が来た借金を4,051百万円返した
⑤ ホールが建つ土地のリース料等576百万円払った
ここまでで4,627百万円使った。手元には1,184百万円残ってる。
⑥ 新しくホールを出店するために415百万円使った
⑦ M&Aはしなかった。
ここまでで更に415百万円使った。手元には769百万円残った。
実際に残ったのは696百万円(⑧)。差額の73百万円はその他および誤差。
2019年度は銀行からの借入金がとても大きいが、ほぼ同額を返済している。詳しい事情はわからないが、相殺すれば50百万円の借金に過ぎない。
2020年度は追加の借金無しで新ホール出店と借金返済をし、かつ期末の現金残高を増やしている。2019年度も同様だ。
そんなに資金繰りが苦しそうな感じはしないのだけど、どうだろう。
3.新ホールの出店にいくらかかるか
キャッシュフロー計算書のうちの「有形固定資産の取得による支出」を新ホール出店のために使ったお金と判断して計算した。そんなに大きく外した計算ではないと思う。
新中計ではホールの出店スピードを上げると表明している。そのために多額の資金が必要なら増資を行う可能性は増える。
では新ホールを1つ出店するために、どのくらいお金がかかるのか。
C/Fの有形固定資産の取得による支出と出店数は以下の通り。
19年度 415百万円・5店舗
20年度 457百万円・7店舗
21年度 882百万円・15店舗
3年間で 1,754百万円・27店舗
1店舗を出店するための支出は
19年度 83百万/店舗
20年度 65百万/店舗
21年度 59百万/店舗
3年間で 64.9百万/店舗
年度が進むにつれて出店コストが下がっている理由はわからない。店舗建設にもスケールメリットが働くのか、小さなホールを出すことが多くなったのか。
1店舗あたりの出店コストを65百万円と仮定する。
すると、年間10店舗の出店には650百万円、15店舗の出店には975百万円かかる。
今期の出店は10店舗の計画なので新たな借金も、もちろん増資もする必要はなさそうだ。手持ちの現金が1,056百万円もあるのだから。
23年度以降はちょっと資金が足りなくなるかもしれない。その時は是非増資ではなくて借金で対応していただきたい。
4.運転資金は?
増資に走るのは年単位の収益がどうこう言うより運転資金が足りなくなるからでは?
そう考える人も多いと思う。企業はいくらPL上で儲かっていても、現金がなくなった途端に潰れる。運転資金の枯渇こそが増資やMSワラントの原因だとも言える。
しかしきずなHDの運転資金は少なくて済むようだ。
葬儀を出した後、顧客からは2週間以内にお金が支払われる。一方、食事代や花代などの仕入先への支払いは1ヶ月後以降になるそうだ。商売をすればするほど手元のお金が増えるビジネスの仕組みなんだ。
この事は2020年度4Qの決算説明会動画で社長が言ってたので、時間のある方は確認してください。
そもそもきずなHDの商品は「社員が提供するサービス」だ。商品を外から仕入れて売る商売ではない。運転資金を多く必要とするビジネスではない。
運転資金が足りなくなるから増資、という事はなさそうだ。
5.新店舗の利益化は?
新しく出した店舗がきちんとした売上や利益を出すまでに時間がかかるのでは?その間の従業員の給料や土地のリース代を考えると、やっぱりお金が足りなくなるのでは?
そんな疑問もあると思う。
しかしこちらも大丈夫のようだ。新店舗が単月で黒字化するまで1年かからない、という話を社長がしてた。ちょっとどこで見たか覚えていない。見つけた方は教えて下さい。
新店舗が単月で赤字になる期間が1年以内なら、新規出店攻勢で資金が足りなくなる可能性も低いと考える。
6.まとめ
自分なりに資金ショートの可能性を考えてみた。会計の事はあんまり詳しくないのでとんでもない勘違いをしている可能性もあります。
間違いに気付いた方はぜひツッコんでください。
なお、お金が足りているのにMSワラントなどを発行するという残念な企業も時々見かけますが、その可能性は無視します。
お金の流れで一番大きいのは営業キャッシュフローだ。
だから増資するかどうかは、結局売上と利益で決まると考えてよさそうだ。
だから次回は多分、売上と利益について書きます。
要約:
・2022年度は借金も増資もしなくてもお金は足りそう
・2023年度に15店舗出店するためにはちょっと足りないかも
・2023年度も2022年度からの営業キャッシュフローが十分なら大丈夫かも
・結局売上予想と利益予想が必要、それを次回書くかも
・お金が足りているのにMSワラントを発行するような企業なら知らん
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