きずなHD⑥・・バリュエーションについて②
1.中期経営計画と利益
前回の記事では2023年5月期の売上目標の達成の可能性について考えてみた。
今回は利益の目標達成の可能性について考えてみる。
中期経営計画をもう一度見てみる。2023年5月期の当期利益のは554百万円だ。
2020年から比べて+163.8%成長する計画になっている。
純利益率を計算すると2020年度は2.73%だが、2023年度は5.31%まで上昇している。
現在より利益率が上がることを想定している訳だ。
そんな事が本当に可能かどうか、考えてみた。
結論から先に書く。
私にはこの2023年度の純利益554百万円が、妥当どころか楽勝のように思えた。
そう思った根拠について書いていく。
2.営業利益と当期利益
きずなHDのPLを確認すると以下のようになっている。
IFRSなので営業利益から当期利益までは、ほぼ金融費用と法人所得税費用しかない。
金融費用は有利子負債の利息がほとんどだろう。負債の額と利率によって自動的に決まる。どのくらい借金を返済するのか増やすのか、利率はどのくらいなのか。
それらは今後の投資の規模と金利によって決まるはずだ。
一方、法人所得税も利益によってほぼ自動的に決まる。
金融費用と法人所得税は経営者にとっては予測しやすいはずだ。
だからこの2つの項目は会社予想をそのまま信じる事にした。一応、自分でも計算してみたが、そんな突飛な数字ではなかった。
中期経営計画には2023年5月期の営業利益についても書かれている。
2023年5月期の営業利益は1,027百万円と予想している。
この予想営業利益の数字が妥当なのかどうかを検証すればいい。
3.売上と営業利益(全体像)
売上と営業利益は以下のように表すことが出来る。
営業利益 = 売上 ー 原価 ー 販管費
最初に全体像を捉えてみる。
まず過去の4Qごとの原価率がどのくらいなのかを確認する。
グラフの右側の縦軸が原価率の目盛だ。
最も低い2019年4Qの原価率が60.8%、最も高い2021年1Qの原価率が64.8%だった。目盛が50%から始まっているので大きく変動しているようにも見えるが、実際は±2%以内に収まっている。
次いで販管費の推移を見てみる。
販管費は売上に関わらずほとんど変化していない。
2020年4Qだけ突出しているが、これはきずなHDの上場費用のためだ。上場費用は今後考えなくていいので無視する。この2020年4Q を除くと、販管費はQごとに533百万円~555百万円の中に収まっている。つまりほとんど変化していない。
現在の販管費は四半期ごとの555百万を4倍した2,220百万円と考えていいだろう。
過去の数字を押さえたあとで2023年の売上と利益を見る。
2023年5月期の売上予想は10,420百万円、営業利益は1,027百万円。
過去の4Qで一番原価率が高かった2021年1Qは64.8%だ。計算しやすいように原価率65.0%と設定すると、売上が10,420百万円なら原価は6,773百万円だ。粗利は3,647百万円となる。
2023年5月期の営業利益が1,027百万円なので、
営業利益 = 売上 - 原価 - 販管費 の式に当てはめると、
1,027百万 = 10,420百万 - 6,773百万 - 販管費
販管費 = 2,620百万
年間の販管費を2,620百万円使っても利益目標が達成できてしまう。
年間2,620百万ならこれまでの販管費の118%という事になる。
つまり、原価率を過去最高の65%に設定し、更に販管費を18%増やしても目標が達成されてしまう。達成のハードルは十分に低い。
実際の原価率は63.5%、販管費は10%増しの2,442百万円くらいになるのではないか。
この数字で計算すると以下のようになる。
売上 10,420百万円
粗利 3,804百万円
営利 1,362百万円
前提を甘くして計算すると、営業利益は1,362百万円。会社予想の132.6%までになる。
4.原価を深堀
「過去の原価率はだいたい61%~65%」
「最も高い65%でも会社予想利益のクリアは楽勝」
「平均的な原価率63.5%なら素晴らしい数字が出るよ」
原価についてはこんな理解でも十分だと思っている。
でももう少し深堀りしてみる。
きずなHDの決算説明資料はとても充実していて、原価の内容まで踏み込んで説明されている。せっかくだからそれについても考察する。
既にウンザリしてきた人は結論まで読み飛ばしてください。
説明会資料の通り、2021年2Qでの原価率は62.8%だ。
今回は数字よりその内訳を見たい。原価の中で大きいのは直接原価と減価償却費と労務費だ。直接原価は変動費、減価償却費と労務費はほぼ固定費だと考えていいだろう。
直接原価には、参列者に出す料理や返礼品や、祭壇の生花にかかるお金が含まれる。生花などを内製化してコストカットを図っているようだ。
減価償却費はホールの建物や設備などのものだ。
新しく出店したあとは一時的に減価償却費率が上昇する。新店舗では売上が軌道に乗るまでしばらくかかる。その間にも固定費である減価償却費はかかり続けるのだから、出店が加速すれば減価償却費率は上がる。
出店のスピードが計画通りに進むならば、減価償却費も計算済だろう。減価償却費の計算が予想と大きくブレることはないだろう。
労務費は実際の葬儀を行うスタッフの人件費だ。
スタッフの必要人数はホールの数に比例する。よって新規出店が加速すれば労務費が増える。労務費は固定費なので、売上が上がるまで原価率を上げる要素になる。
説明会資料にも同じことが書いてあった。
新規出店後は6~7年かけて認知度の向上を図り、売上を既存店並みまで引き上げていくという認識のようだ。
中期経営計画には将来の予定従業員数も出ている。予定以上に従業員数が増えて労務費が上ブレする事はないだろう。
サービス業なのだから実際に葬儀を行うスタッフこそ最も重要な要素だと思っている。人材の確保は会社の成長に欠かせない。
むしろ人材確保ができずに出店のスピードが衰える可能性の方を心配すべきかもしれない。これについても考えたが、今回のテーマとは外れるので割愛します。
という訳で原価率についての結論。
・原価率は出店スピードが上がると一時的に上昇する
・半年間で10ホールを新規に出店した2021年2Qでも原価率は62.8%
・過去の原価率はだいたい61%~65%
・原価率を過去最高の65%に設定しても中期経営計画の会社予想利益のクリアは楽勝
・平均よりやや高い原価率63.5%の想定でも素晴らしい数字が出る
5.まだ続く
販管費について深堀したところまで書く予定でしたが、力尽きました。
販管費と最終的なバリュエーションについては次回書きます。
私は会計の素人なので、詳しい人から見たら変な事を書いている可能性があります。突っ込みどころがあれば是非教えて下さい。
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私も企業分析に役に立つと思って買いましたがまだ読んでいないです。
読んでいないので魂を込めて勧めることはできませんが。