中1の息子に教える株式投資の始め方

40代の兼業投資家です。2019年の秋に株式投資を始める予定の息子「くま」に、投資の心構え、決算書の読み方、ビジネスモデル等をやさしく教えます。

きずなHD④・・予測可能な未来とリスク

 タージ・マハルのイラスト

予測可能な未来、だが未確定

未来は予測可能なものもある、という話を最初に書いた。

 

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きずなHDの未来は上の図の中のレベル1に近いのではないか。

そんな話を書いたが、もちろんバラ色の未来が100%保証されているわけではない。保証されているならそれは株価に織り込み済みになってしまう。未来の価値が株価に織り込み済みならば、投資してもあんまりお金は増えない。

 

実際の未来はレベル1~3がある程度ブレンドされたような状態なのだろう。

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このグラフの網掛けの領域の幅や下の方に垂れ下がっている「ひげ根」の数や太さが、未来の不確定さの程度を示している。

 

きずなHDの未来は図の網掛けの部分の幅が狭いと考えている。

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そういう意味で「未来がある程度予測可能」だと書いた。

ならば次は網掛けのエリアから外れた「ひげ根」について検討していくべきだ。

 

議論がぼやけないように、未来予想モデルの定義をひとつに絞っておく。

横軸は時間、縦軸はEPSとする(株価ではない)。

 

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時間とともに直営ホール数が増加し、それに伴ってEPSが増えていく。

これが未来のメインストーリーだ。網掛けの部分の幅の中に収まる未来だ。

 

しかし、何かのきっかけでEPSが下がる未来もある。こちらの未来は網掛けの部分から下に垂れている矢印で表される。この矢印こそが検討するべき「将来のリスク」だ。

 

リスクを1つ1つ検討していく。

 

 

リスク①:有利子負債が多い

きずなHDは直営ホールで葬儀サービスを提供している。

直営ホールを建てるにはお金がかかる。そのお金は主に金融機関からの借金で賄われている。

 

きずなHDの2021年2Qでの有利子負債は14,500百万円。有利子負債率74.7%だ。

この有利子負債にはリース負債が含まれる。詳細は省くが、きずなHDは借りている土地や車両などのリース代金も有利子負債に含まれるという会計システム(IFRS)を採用している。

リース負債のことはひとまず置いておく。

 

リース負債を抜いた真水の借金である金融機関からの借入金は4,047百万円だ。

この40億円の金利は、市場金利と連動して半年ごとに見直される契約になっている。つまり今後金利上昇が進めば支払利子負担が増える。そうなれば当然EPSは下がる。

 

また、40億円の借金は「2期連続して赤字だったら一括返済」という制限条項が付いている。普通に考えて2年間連続赤字などなさそうだが、2年連続して大震災が起こることもあるかもしれない。

 

「大震災のことまで考えていたら投資なんて出来ないよ」と思っているが。

 

 

リスク②:のれんの減損

きずなHDのB/Sを見ると、3,625百万円ののれんが計上されている。これは総資産の18.6%を占める。

 

こののれんの大きさはM&Aを繰り返して成長してきた企業としては当然だ。また詳細は省くが、上場前のLBOものれんが大きくなった理由のひとつだ。

きずなHDの会計はIFRSなので、のれんは基本的に償却されない。しかし買収した企業の収益が悪くのれんの価値が回収できないと判断された場合、一気に減損される可能性がある。その場合、その期のPLは無事では済まないだろう。

 

 

リスク③:増資やMSワラントの可能性

きずなHDが成長するためにはホールの建設という設備投資が必要だ。つまり成長のためにはお金が必要なんだ。

そのお金を調達するために、増資やワラント発行を行う可能性もあるかもしれない。

 

 増資やMSワラントについても過去に書いているので良ければ参考にしてください。

増資やMSワラント発行が行われれば、EPSは下がる。

 

増資以上にEPSが上がるなら長期的には問題ないのだけど。

 

 

リスク④:葬儀単価のさらなる下落

平均寿命の伸びと社会構造の変化によって1件あたりの葬儀単価は下落してきている。

これは家族葬を事業の中心に置いているきずなHDにとっては追い風だが、さらなる下落は向かい風になる。

 

きずなHDの2021年2Q葬儀単価の平均は83万1千円だ。

単価は月次でも発表されている。そのグラフを載せておく。

 

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グラフの通り、新型コロナウイルス感染症の蔓延によって葬儀単価は下がってきている。そして単価はまだ下がる余地がある。

 

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きずなHDのメインブランドである「家族葬のファミーユ」のサイトでは、上記のように葬儀プランをの3つに分けて提示している。

 

 一番右の火葬プランは11.3万円からだ。

これは事実上葬儀を行わず、直接ご遺体を火葬場に持っていく方法だ。

新型コロナウイルスの影響もあってこの火葬プランを選択する方が増えたそうだ。

 

 しかしこれはあまりにも合理化しすぎだ。火葬プランを選択して後悔する遺族も多いとの事。

ネアンデルタール人は既に死者に花を添えて葬儀を行っていた。死者を悼むのは人類の本質だ。火葬プランはそんなに広がらないと考えているが、どうだろうか。

 

 

リスク⑤:地域ドミナントと悪評

葬儀会社は評判が命だ。人生で1度きり、失敗の許されない葬儀をあえて評判の悪い葬儀会社にお願いしたい人は少ないだろう。

 

ちょっと前に「バイトテロ」という言葉がよく聞かれた。コンビニで働くアルバイトの人が、店舗の冷凍庫に寝転がるというバカな動画をUpして炎上し、その店舗の売上が激減した事件だ。

 

万が一にでも死者を冒涜するような動画がぎずなHDの関係する施設で撮影されUpされた場合、その地域の売上にかなりのダメージを与えるだろう。

 

地域ドミナント戦略をとる葬儀会社にとって、悪評は命取りだ。

そのためにもモラルある社員を採用し、その働きにきちんと報いる必要がある。

 

 

リスク⑥:VCが大株主

きずなHDの最大の株主はアドバンテッジパートナーズというベンチャーキャピタルだ。その保有率は48%を超えている。

他にもゴールドマンサックスや日本トラスティサービスなどの名が大株主として連なっている。このあたりのVCや金融機関が株を売ってくる可能性はある。

その一方で、社長や役員、創業者らしき人物は大株主一覧には載っていない。

 

これはEPSとは関係ないが、投資家としては無視できないリスクだろう。

 

 

まとめと次回予告

・きずなHDに投資する際に想定されるリスクを挙げてみた。

・予測可能な未来などと言いながら当然リスクはある

・銘柄に惚れる事なくリスクを冷静に分析し判断するのが投資家の仕事

 

 

 次回は数年後の売上や利益の予想、それに伴うバリュエーションについて書きます。

私は将来の利益とリスクを考慮し、十分安いと判断したからきずなHDを買いました。

 

 

「Zero  to  ONE」

最近読んだ本です。ペイパルを創業したピーター・ティールがスタートアップについて書いた本。とても刺激的で面白い。

序文を「僕は君たちに武器を配りたい」の瀧本哲史さんが書いている。それだけでも読む価値あり。