中1の息子に教える株式投資の始め方

40代の兼業投資家です。2019年の秋に株式投資を始める予定の息子「くま」に、投資の心構え、決算書の読み方、ビジネスモデル等をやさしく教えます。

きずなHDを買った訳③・・成長のための戦略

ギザの三大ピラミッドのイラスト

1.きずなHDと業界の現状

2021年現在、きずなHDは89の直営ホールを運営している。

主な展開エリアは、宮崎県(21ホール)、熊本県(16ホール)、北海道(17ホール)、千葉県(16ホール)、愛知県(12ホール)などだ。

 

きずなHDの売上に占める直営ホールの割合は9割以上だ。

ネット集客や仏壇等のアフター商材販売、業務委託なども行っているが、売上や利益に占める割合は少ない。フランチャイズ展開も選択肢に入っていない。

きずなHDは直営ホールを増やしていくというシンプルな成長戦略を描いている。

 

具体的にどのような方法で直営ホールを増やすつもりなのか。その戦略について書いていきたい。

 

前回書いた業界の現状を再掲しておく。 

チャンス

・業界のリーダーとなるような企業が存在しない

・零細葬儀会社の廃業が進んでいる

 

脅威

・葬儀の単価が減少している

・地域性という参入障壁が存在する

・消費者側の終活意識が高まっている

・優秀な人材が必要だが人材確保が難しい

 

 

2.地域ドミナント戦略という成長戦略

きずなHDの社長は以前のインタビューでこんな話をしていた。

「直営ホールの出店は密にやりたい。半径1.5~2 ㎞にひとつくらい出す。札幌だけでも50ホール必要だと考えている」

これは完全に地域ドミナント戦略だ。

 

企業の利益の源泉は「独占」にある。狭い地域を独占することで地元で負け知らずになるのが「地域ドミナント戦略」だ。

ずっと前に書いた記事だが、是非読んでほしい。

もともと地域性の高いビジネスである葬儀業だが、その中で成長するためには地域ドミナント戦略が最適解になると思う。

 

地域ドミナント戦略には、宣伝が効果的に行える、地域に合わせたサービスが展開できるといった利点がある。そして一度ドミナントが達成されてしまえばそれ自体が他社の参入を防ぐ堀として働く。

 

また、密な店舗展開は人材の有効活用にもつながる。すべてのホールが365日葬儀を行っているわけではない。スタッフが隣のホールに応援に行くことは可能だ。優秀な人材を有効活用する上でも地域ドミナント戦略は役立つ。

 

更に失注の回避にもつながる。スケジュールが埋まった時は隣のホールで葬儀を行ってもらえばいい。ホールとホールの距離が20㎞も空いていれば難しいが、2㎞くらいなら利用者にとっても十分許容範囲だろう。

 

 

3.M&Aという成長戦略

有価証券報告書等を読むと、きずなHDのこれまでのM&Aの軌跡が書かれている。

 

2005年3月 綜合葬儀会社みやそうをM&Aにより吸収合併

2013年4月 札幌地区のGEN株式会社を完全子会社化

2016年11月 愛知県の株式会社ファミーユから葬儀事業を譲り受け

2018年4月 京都の株式会社花駒の全株式を取得

2021年1月 岡山県備前屋の株式を取得

 

 

葬儀は地域差が大きく、それが土地の風習を知らない外部の者にとっては参入障壁になる。シェアを大きく占める葬儀業者が存在しない理由のひとつだ。

 

土地の風習がわからないのなら、土地の風習を知る会社を買ってしまえばいい。つまりM&Aだ。

そうやって足がかりを確保した後に、その周囲を地域ドミナント戦略で占拠していく。これを繰り返すことでゆくゆくは全国制覇を狙うのがきずなHDの戦略だ。

 

ある時のインタビューで社長はこう語っていた。

「現在の戦略で全国展開するとしたら、全部で1,500ホール必要になる。まだまだ先だが、既にホールを展開する予定地には地図上にピンを打ってある」

きずなHDが現在展開しているのは89ホールだ。ちょっと風呂敷が大きすぎる気もするけど、株主が聞く話としては悪くない。

 

 

4.オリジナルプランという戦略

葬儀の列席者が減少することで葬儀単価は減少しつつある。

このことは家族葬を提供するきずなHDにとっては追い風であるが、向かい風でもある。参列者が40人でも30人でも家族葬だが、葬儀1件あたりの単価は下がる。

 

この傾向は新型コロナ感染症の流行で拍車がかかったようだ。人が集まれば感染リスクは増える。葬儀といえどもウイルスは手加減してくれない。結果、葬儀は更に小規模になっていく。

 

参列者減少に伴う単価下落に対して、きずなHDは「オリジナルプラン」という対策を用意している。

 

オリジナルプランとは、オーダーメイドで行う葬儀プランだ。文章で説明するより具体例を見てもらった方がいいだろう。

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オリジナルプラン物語 | 家族葬のファミーユ (famille-kazokusou.com)

このように、ひとりひとりに合わせた葬儀を提供するのがオリジナルプランだ。

 

葬儀が「昔から決まっている定型的なしきたりに沿って行うもの」ならば、それはコモディティだ。規模の大小はあっても差別化ができない。

しかし結婚式と同じように「消費者の希望に沿って行うもの」ならば差別化は可能だ。手間も人手もかかるが、その分単価は高くなる。

 

きずなHDがこのオリジナルプランを開始したのは4年前の2017年からだが、スタートから8か月は1件の受注もなかったそうだ。実際受注が入るようになってからも1件の葬儀に25人のスタッフが必要になるなど、採算が合うような事業ではなかった。

しかし現在はノウハウが蓄積し、3人のスタッフで施行できるようになったとのこと。

 

きずなHDはこのオリジナルプランこそ自社の提供する価値だと考えているようだ。

他社との差別化と単価下落に対する切り札でもあるため、オリジナルプランの件数を重要KPIとして決算ごとに発表している。

 

そしてこれは想像なのだけど、オリジナルプランこそ人材採用の決め手になっているのではないかと考えている。

仕事にはやりがいがあった方がいい。故人らしい葬儀を挙げることができれば遺族から感謝される。そんな金銭以外報酬が、労働には必要なんだ。

 

実際きずなHDの社員の多くは葬祭業経験のある中途採用者だ。

定型的な葬儀を流れ作業のごとく提供する企業と、オリジナリティを出し遺族に感謝されるサービスを提供する企業。求職者はどちらで働きたいと考えるだろうか。

 

 

5.まとめ

◎地域ドミナント戦略

・零細葬儀会社の廃業が進んでいることが追い風

・地域性の強い葬儀業界としては最適解

・人材の有効活用につながる

 

◎M&A戦略

・地域差という参入障壁がクリアできる

・参入後は地域性という参入障壁が有利に働く

・優秀な人材の確保も可能

 

◎オリジナルプラン戦略

・終活意識の高まりが追い風になる

・葬儀単価の減少に対する対策になる

・優秀な人材確保の切り札になる?

 

それぞれの戦略が時代の流れと噛み合っている。

 

 

6.次回予告

バラ色の未来を描きましたが、お花畑はここまでです。

次回はおまちかね、きずなHDを購入することのリスクについて書きます。

 

株主なんだからリスクについてなんて黙っておけばいいのかも知れませんが。。

まぁ煽り屋としてやっていくつもりはないのでw

 

 

葬儀業界の調査で一番参考になった本。このブログの元ネタにもなっている。

きずなHDのホルダーなら読んでおいて損はないです。