中1の息子に教える株式投資の始め方

40代の兼業投資家です。2019年の秋に株式投資を始める予定の息子「くま」に、投資の心構え、決算書の読み方、ビジネスモデル等をやさしく教えます。

投資や手術が上手くなりたい方へ⑤・・「センス」の正体

会計帳簿のイラスト

1.上手くなりたいか、と彼は聞いた

前回の記事を書きながら思った。

そもそも「投資や手術が上手くなりたい方へ」ってなんだよ?上手くなりたくない奴なんていないよ。投資家だったら誰だって投資が上手くなりたいし、外科系の医者なら誰だって手術が上手くなりたいに決まってる。このタイトルがそもそも無意味じゃないのか?だから反響がないんじゃないか?

こういう風にすぐ自分のやっている事に迷いが出てくるのは私の癖だ。

 

でもしばらくしてこのように思い直した。

「投資が上手くなりたい」っていうのはある意味本質を突いているかもしれない。「お金をたくさん儲けたい人へ」だったらより一般的だけどそうは書かなかった。株式投資を正しく「鍛錬して習得するスキル」とみなして、その努力する方向を提案するのなら意味があるのかもしれない、と。

 

という訳で、飽きたと書きながらももう少し続けます。

 

 

手術が上手い人とは以下の要素がそれぞれ高い人だと書いた。


① 縫合、結紮、剥離、切断などの基本的な手技が上手い

② 人体の立体的な構造への理解が深い

③ こんな時はこうすればいい、というような「引き出し」が多い

④ 出血時などの急な変化にも対応できる対応力を持つ

⑤ 大量出血などの危機にも落ち着いて対応できるメンタルを持つ

 

今日は③と④についてまとめて書く。というか、③と④は同じことを書いているだけだと気付いてしまったのでまとめてしか書けない。

 

 
2.知らない町の交通障害

手術中は予想外のことがしばしば起こる。顔の作りがひとりひとり違うように、お腹のなかにも個人差がある。血管や神経があるはずの場所になかったり、本来片側1本しかないはずの尿管が2本あったりすることも珍しくない。腫瘍や癒着で腹腔内の立体構造が全く変わっていることはしょっちゅうだ。

そのようなときは教科書通りの手術ができない。駆け出しの執刀医はそこで思考がフリーズしてしまう。

 

これは事故や天災で交通障害が発生したとき、事前に決めた予定通りの路線では目的地にたどり着けないのと似ている。

こういう時、路線図に詳しい地元の人はすぐに代わりの電車を使うことができる。それに対して土地勘のないよそ者は右往左往するしかない。

 

今ならスマホのアプリを使えば代替の電車はすぐに検索できる。だけど手術中につかえるそのような便利なアプリは存在しない。駆け出しの医者は経験を積み上げていき、何があっても目的地に着けるように土地勘を身に付けるしかない。

引き出しを増やすというのはこういう事だ。

 

そして④の急変時での対応。これは③に時間の圧力がプラスされた状況だ。

 手術中に進め方がわからなくなっても、立ち止まって考える事はできる。しかし急な出血時にはそうはいかない。考えている内にどんどん出血が続くのだから、早急に対応する必要がある。

その時間の圧力と、精神的なプレッシャーと、出血による術野の悪化。これらが次々連鎖反応を起こしてどんどん状況が悪化していく。これはとてもつらい。全身にたっぷり汗をかいて術衣が重くなるほどだ。

 

このような状況においても、対応するための知識・技術が引き出しの中にあれば切り抜けることができる。引き出しの中にあるものの中で、その状況に対応するための道具を適切に選んで使用する。適切に選ぶ判断力も重要だが、引き出しの中が空っぽならそもそもどうしようもない。

 

 

3.投資に当てはめてみると

手術が上手くなるための要素である上記の内容は、そのまま投資についても応用できる。説明は不要かとも思われるが、一応書く。

 

④ こんな時はこうすればいい、というような「引き出し」が多い

⑤ 暴落、下方修正などの急変時の対応力がある

 

相場環境は常に変化する。世の中は常に動いているし、会社の業績も同じであるはずがない。教科書通りに株価が動いてくれれば楽だけど、なかなかそうはいかない。交通障害の発生どころか、そもそも時刻表がない状態で運行している電車で目的地を目指すようなものだ。

だからこそ土地勘が必要になる。

 

暴落や下方修正などの急変時はなおさらだ。お金が減っていくプレッシャーの中で、短期間の内に判断して対応する必要があるのだから。

「こんなときにはこうすればいい」という引き出しの中の道具を充実させること。それらの道具を正しく判断して使う判断力を身に付けること。

この2つは、手術でも投資でもとても重要なんだ。

 

 

 4.「センス」の正体

その場その場での正しい判断力のことを「センス」と呼ぶのだろう。

 

手術のセンスがない、株式投資のセンスがない、などとあいまいな言葉で分かったような事を言う人はどこにでもいる。そのセンスとやらの正体は「判断力」だ。大した事は言っていない。センスを身に付けるとは、判断力を身に付けることだ。

 

それでは判断力を身に付けるにはどうすればよいか?

上手い人の手術を見たり、動画を見たり、教科書を読んだりする。その上で経験を積む。そして振り返って反省する。この繰り返しだ。PDCAサイクルっていうやつだ。

 

P:こうすればいいのかな?

D:やってみる

C:どこが良かった?どこが悪かった?どうしてこうなった?

A:次はこうやってみよう

 

これを繰り返すんだ。

 

お勧めはこれらの思考過程を手書きで残すことだ。

手術をしたあとは「手術記録」というものを書く必要がある。それを書くのはもちろんだけど、それにプラスして自分用の記録を作ることをお勧めする。

公文書でもあるカルテや手術記録は実際にやったことしか書けない。自分用の記録なら「こうやるべきだったのかもしれない」「次はこうやってみよう」という事も書ける。手書きならイラストも追加できる。

この記録を、なるべく記憶が鮮明なうちに書き残す。そうすればより早く定着する。

私は医者になってからずっとこの自分用の手術の記録を続けている。ルーズリーフノートに手書きで残している。もう何百枚あるかわからない。この習慣はずっと続けていくつもりだし、そのお陰で手術が上手くなった部分もあるはずだ。

 

同じように投資の履歴も残すべきだ。

なぜその企業を買ったのか?どの部分に惹かれたのか?その株価を安いと考えた理由は?不安な点は何か?どのくらいの投資期間を考えていたのか?どのくらいの値上がりを想定していたか?撤退する条件は何か?

買う前に考えていることをノートに書く。記憶は役に立たない。すぐに自分の都合の良い方へ記憶を書き換えてしまう。

そして実際に売買する。

結果はどうだった?上手く行ったのか行かなかったのか?売った時の考えは?その時の気持ちは?

 

記録は正直に書く。見るのは自分だけだ。twitterじゃないのだから、取り繕う必要はない。良かった点、悪かった点を洗い出していく。

そうやって取引の記録をつけておけば、迷いがなくなる。経験が正しく蓄積されていく。投資の「センス」とやらが身に付いていくはずだ。

 

 

5.まとめ

・センスとは判断力のことだ

・判断力は勉強と経験によって身に付けることができる

・経験をより正しく蓄積するために記録を付けることを強く勧める

・センスっていう言葉は嫌いだ

 

 

  平均的な才能を持つデザイナーである主人公が、不幸にも天才に出会ってしまったためにさんざん苦労してしまう話です。まだ10巻までしか出ていませんが、自分の才能につて悩んだことがある社会人にはかなりの確率で刺さります。もちろん私には刺さりまくりでした。