ビジネスモデル⑤ エレガントな独占「ジレットモデル」と、その天敵「非純正品」
こっそり「独占」して儲けている企業を探せ、というテーマでビジネスモデルを考えていくシリーズ。あと2回、⑥までつづくのでもう少しお付き合いを。
1.キング・ジレットが発明した2つのもの
ジレット、と言えばヒゲを剃るためのカミソリだ。Amazonでも普通に売られている。
T字の替え刃式カミソリはキング・ジレットという人が発明し、1903年に発売された。
それ以前のカミソリは、
人も殺せそうな厚い刃と切れ味が怖い。なまってしまったら自分で研ぐ必要がある。こんなものを個人が使うのは厳しい。現在は理容室くらいでしか使われていないだろう。
ジレットが発明した便利な替え刃のT字カミソリだが、最初は全く売れなかった。発売された1903年には、本体が51本、替え刃が168枚しか売れなかったそうだ。
そこで、ジレットは本体を無料で配ることにした。
使ってみれば便利なことがわかる。便利なことがわかれば、消費者は替え刃を買ってくれる。口コミでも評判がひろがる。
その結果、翌1904年には9万個の本体と12万3000枚の替え刃が売れるようになった。一度本体を買ってもらえば、それに適合する替え刃は必ず買ってもらえる。替え刃は特許でガチガチに守っておけば、独占して販売できる。
独占が儲けの源泉という話は、これまで何度も書いた。
この「本体を安く配って替え刃で儲ける」というビジネスモデルは、「ジレットモデル」と呼ばれる。ジレットさんは、替え刃式のカミソリと「ジレットモデル」というビジネスモデルの2つを発明したんだ。
2.ジレットモデルの典型例
このジレットモデル、よく考えるといろんな商品に応用されている。
どんなものがあるか、まず考えてみてください。
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考えましたか?
替え刃式のカミソリは現在も売られている。
ネスカフェアンバサダーのような、コーヒーマシンそうだ。
ウォーターサーバーのマシンもそう。
そして、プリンターが何よりの典型だと思う。
家庭用のプリンターは、本体ではほとんど儲けが出ない。各社ともそのような価格設定を行っている。メーカーは、まず安くてもいいので本体を買ってもらう。そうすればずっとインクを買ってもらえる。プリンターにとって「インク=替え刃」だ。プリンター本体が買い替えられない限り、インクを買ってもらえる。
プリンターメーカーは、インクで利益をあげているんだ。
本体が普及した後は、実に安定した売り上げと利益が約束される。
3.天敵、非純正品
しかし、世の中には各社のプリンターに合わせたインクを格安で売っているメーカーがある。いわゆる非純正品だ。例えば、キャノンのプリンターに適合したキャノン以外のメーカーのインク。これはキャノンの純正品よりずっと安い。
プリンターメーカーにとって、これは死活問題だ。プリンター本体では儲けが出ないのだから、インクを売らないと利益がなくて潰れてしまう。
非純正品のメーカーはプリンター本体の研究開発費がかからない。だからインクの販売で本体開発費を回収する必要がない。インクはぎりぎりまで安く売る事ができる。
非純正品のメーカーは、儲からない本体の開発・製造・販売をプリンターメーカーに押し付けて、インクの販売という美味しいところだけをかっさらう。しかも純正品より安く売る事が出来る。非純正品の存在は、プリンターメーカーにとって災害レベルの問題なんだ。
だからプリンターメーカーはインクの利益を守るために必死になる。
プリンターに様々な細工をして、非純正品では上手く動かないようにする。特許で非純正品を作らせないように守る。非純正品を作っているメーカーを訴えて製造をやめさせる。「非純正品を使うと壊れるよ。非純正品を一度でも使うと修理保証しないよ」とマニュアルに書く。
いろいろ対策を取っているが、家電量販店には多くの非純正品のインクが並ぶ。Amazonでもたくさん売られている。
プリンターに関しては、エレガントなジレットモデルが上手く機能していないように見える。独占は非純正品のメーカーによって破られている。
本来独占できるはずのインク市場が、非純正品のメーカーとの領土紛争の舞台となっている。ライバルとの競争が激しい市場では、あんまり儲からない。
4.まとめ
・ジレットモデルは上手くやるとエレガントに独占が成り立つビジネスモデルだ。
・プリンターはジレットモデルの典型だが、非純正品にやられている。
・プリンターのように本体の開発費がかかるビジネスは、非純正品にやられやすい。
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