中1の息子に教える株式投資の始め方

40代の兼業投資家です。2019年の秋に株式投資を始める予定の息子「くま」に、投資の心構え、決算書の読み方、ビジネスモデル等をやさしく教えます。

旬は過ぎてしまったが、MSワラントとは何かという話

生鮮食品を運ぶ配達員のイラスト(女性)

MSワラントの発行をIRして株価が暴落したプレミアグループ。

株主だった私はがっかりした。だからせめて今回の事を経験として蓄積して今後に生かしたいと思った。お金は減ってしまったが、それを経験として回収できれば完全な無駄ではない。単純に忘れてしまえば、それは完全な無駄死にだ。あまりにももったいないじゃないか。

 

というわけで、調べたことや考えたことをブログに書こうと思った。そうこうしているうちに、プレミアグループはMSワラントの発行中止を発表した。

 ↓

http://file.swcms.net/file/premium-group/ja/news/auto_20190314490563/pdfFile.pdf

 

記事の内容としては完全に旬を逃した。

でも息子にとって、今回の事はちょうどいい勉強の機会だ。旬は過ぎたけど、MSワラントとは何かという話を書いていきたい。

 

 

1.MSワラントとは企業がお金を集める手段の1つ

 MSワラントとは「Moving Strike Warrant」の略だ。英語で書かれてもちょっと訳がわからない。日本語では「行使価格修正条項付新株予約権」と呼ばれる。やっぱり訳がわからない。

「行使価格修正条項付/新株/予約権」という風に分解すると、ちょっとわかりやすい。MSワラントの発行とは、新株(=新しい株)を予約する権利を発行する事だ。

 

新しい株を発行する、すなわち増資だ。増資については以前書いたので、忘れた方は読んでください。

企業が新しく事業を行うためには、まず先にお金が必要になる。企業がお金を手に入れるためには、①自分で稼ぐ、②銀行などから借りる、③株式を発行する、の3つの方法がある。増資とは③の方法だ。新しく株式を発行して、それを買ってもらうことでお金を手に入れるのだ。新しく株を発行すると発行済株式数が増えるので、元からの株主にとっては持ち株の価値が下がる。株価が下がることも多く、あまり嬉しい事ではない。

 

まず、MSワラントとは一種の増資だと押さえてほしい。

増資の一種なのだが、とても質の悪い増資だ。

 

 

2.MSワラントは価格が変動するので買い手は絶対に損をしない

後半の「新株予約権」については理解できたと思う。

次は前半の「行使価格修正条項付」の方についてだ。

 

普通の増資の場合、

「これからA社の株を100万株発行します。価格は1株あたり100円です。」

という風に発表される。

この100円という価格は、取引されている株価の5%程度安い所で設定される。おそらくA社の株価は105円~110円あたりで推移しているのだろう。

この場合、A社は100万株 × 100円=1億円のお金を手に入れる事ができる。

 

一方、MSワラントには「行使価格修正条項」が付いている。行使価格、つまり発行する株価が「修正」されるという約束が付いているのだ。

どのように修正されるかというと「市場で取引されている株価より数%低い価格」という風に修正されるのだ。

 

 

普通の増資なら、一度決まった発行株価は変化しない。発行した株を買った後に株価が下がれば損をする。

しかしMSワラントなら、常に数%低い価格で買う事が出来る。数%安く買えるので、買った人は絶対に損をしないシステムになっている。

 

絶対に損をしない株なら私も欲しい。しかしこの株は一般の投資家は買う事が出来ない。すべて発行の手続きをする証券会社が買い取ってしまうからだ。

今回のプレミアグループが発行するMSワラントは70万株だ。この70万株は、すべて発行手続きをした野村證券のものだ。8.5%の割引が決まっているのだから、その頃の株価4,500円を基準に考えると、4,500円×70万株×8.5%=2億6,775万円儲かる。

この「絶対に儲かる株を買う権利」を、野村證券は1,260万円で買い取った。しかし2億円以上儲かるのだから、1,260万円なんてはした金だ。

 

 

3.損をするのは一般の既存株主

絶対に儲かる人がいるのなら、その一方で絶対に損をする人がいる。損をするのは元々その企業の株を持っていた株主だ。

 

発行済株式数が増えるので、元から持っていた株の価値は薄まる。発行済株式数が10%増えれば、100/110=90.9%に価値が下がる。

 プレミアグループの元々の発行済株式数は6,445,500株、そこに70万株の新株が発行されるので、薄まった分を考えると10%ほど株価が下がってしまうことになる。しかし実際は30%近く下がった。その理由はいろいろ言われている。

 

・MSワラントで株が手に入ることがわかっている証券会社は、あらかじめ空売りすることが多い。その後に安く手に入れた株を返せば無リスクで儲かるからだ。空売りの圧力で更に株価が下がることを恐れて暴落した。

 

・MSワラントを発行する企業は1度だけでは終わらず、その後何回もMSワラント発行を繰り返すパターンが多い。それを恐れて投資家が投げ売りした。

 

・MSワラントを発行するような企業は株主を軽視していると判断できる。既存の株主を確実に損させるような会社に投資するのはリスクが高い。株主軽視の会社の株はいらない。だから売られた。

 

・MSワラントは資本調達コストを考えると、通常の増資や借金と比べてとても割高になる。割高なコストを負担するのは巡り巡って株主になる。そんな経営判断をすような会社には投資できない。

 

 

上に挙げた理由をそれぞれ解説するのは大変なのでやめておく。でも、起こったことをまとめると、

「プレミアグループは株主の信頼を売って金を手に入れようとした」

 と判断されたんだと思う。

 

信頼を失った企業の株は下がる。

下のチャートで12月の終わりに暴落しているのはMSワラントの発行がきっかけだ。

 

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多分、プレミアグループの経営陣はそこまで株価が暴落するとは思ってもみなかったのだろう。IRでも「通常の増資より株価への影響は軽微だと考える」なんて発表していた。実際は見ての通り、株価に甚大な影響を与えている。

 

 

4.MSワラントは中止された

そして2019年3月14日、プレミアグループはMSワラントの発行を事実上中止した。

英断だと思う。

経営判断が間違っていたと思ったら引き返す。それができない経営者も多い。

MSワラントの中止で、多少は株主の信頼を買い戻せたのではないかと思う。

 

暴落したところで売った株主にとってはちっとも嬉しくない話だろうけど。

 

 

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