「たった一人の熱狂」を書いた見城徹とは、幻冬舎という出版社を創業した人だ。
幻冬舎は、劇団ひとりの「陰日向に咲く」や、堀江貴文の「多動力」、天童荒太の「永遠の仔」などのベストセラーを出版している。読んだことがある人も多いだろう。
この幻冬舎は、かつて株式を上場していた。
上場していたのは2003年1月の株式公開から2011年3月の上場廃止まで。駆け出しの投資家だった私は、この幻冬舎の株を買った。
買った理由は極めてシンプルだ。
幻冬舎はよく新聞広告を出していた。私はその新聞広告を見て、面白そうな本が多いなと思った。面白い本をたくさん出版する会社は売上が上がるだろう。売上が上がれば株価も上がるはずだ。調べてみると株式を上場していることがわかった。だから株を買った。
その頃の私は株のことなんてほとんど何も知らなかった。多分(このブログをずっと読んでいて内容を理解しているはずの)今の私の息子と同じレベルか、それ以下だ。インデックスファンドの仕組みも、信用取引の追証についても、決算書の読み方も、何も知らなかった。
株を買ったのは「破裂」という小説の広告が新聞に載った時だ。だから2004年の年末頃だろう。幻冬舎の株を、42万円くらいで買った記憶がある。
↓ この本だ。
何も知らずに買った株だが、たちまち60万ほどに上がった。売却し20万弱の利益を上げて、大変満足した。しかしその後、幻冬舎の株は100万円を超えて上がっていった。満足した気持ちは消滅し、ずいぶん損をしたような気持ちになった事を覚えている。
「たった一人の熱狂」にも書かれていたが、見城徹は凄まじい出版人だ。
見城氏が角川書店の社員だった時代のエピソードとしてこんなのがある。
見城氏は、ベストセラー作家である石原慎太郎(その後の東京都知事)に小説の執筆を依頼しに行った。ベストセラー作家なのだから、そんなに簡単に仕事は受けてくれない。見城氏は熱意を示そうと、石原慎太郎の著書である「太陽の季節」と「処刑の部屋」の全文を暗記し、目の前で暗唱しようとした。
石原慎太郎は、その熱意に圧倒されて執筆を受けた。
また幻冬舎は1998年に、郷ひろみが自らの離婚について書いた「ダディ」という本を出版している。幻冬舎社長である見城氏は、この本を初版で50万部を刷っている。20万部以下しか売れなかった場合は、一発で倒産するほどの賭けだったらしい。初版で50万部、というインパクトがあったほうがいいという判断だった。
この本は結果的に、2週間で100万部が売れた。
1999年に、「ヒンシュクはカネを出してでも買え」というコピーで文庫本の広告を打った。その広告に起用されたのは女優の井上晴美だった。井上晴美は完全にヌードになっているだけでなく、スキンヘッドにもなっていた。新聞の一面広告に、スキンヘッドの女優がヌードで掲載されていたのだ。そのインパクトは凄まじかった。
売れている女優が、完全に丸坊主になってしまった。
そのプランを飲むように井上晴美を口説いたのは、見城社長本人だ。
私が買っていた幻冬舎とは、社長がスゴいという事で成長していた会社だったのだ。
話は戻る。
現在の私が株を買うときは、その企業のビジネスモデルを一番重視して買っている。だからビジネスモデルがはっきりしない会社の株は、基本的に買わない。
しかし、社長を始めとする社員が異常な努力と才能をもって大きくしている会社っていうのは確実に存在する。ちょっと前に書いたが、サイバーエージェントの藤田社長も同じタイプだと思う。ビジネスモデルや事業アイデア、あるいは事業の核となる技術がなくても、情熱と努力で次々勝負をしかけ、会社を成長させていく。
技術やビジネスモデルで勝負する会社は理解しやすい。
しかしそういうものがなくても、成長する企業は存在する。社長や経営陣の熱意とか、企業のカルチャーとか。そういった客観的には測定しにくい要素で成長していく企業だ。
個人的にそのような企業を「文系の成長企業」と呼んでいる。サイバーエージェントとか、今回の幻冬舎とか。
最近ちょっと株を買った「じげん」もこのタイプの会社だと考えている。