くら寿司のバイトテロと株価と空売り
くら寿司ではたらく残念な人が、ゴミ箱に捨てた魚の切り身を拾って再びまな板に載せる動画を撮影し、インスタグラムにアップした。
動画は当然のように炎上した。くら寿司を運営するくらコーポレーションは2月6日、「この動画により、お客様には大変不快で不安な思いをさせてしまいました事を深くお詫び申しあげます」と謝罪。そのニュースはインスタグラムなど見ない私のような人も知るところとなった。
くら寿司のイメージは地に落ちる。売り上げも下がる可能性がある。動画を上げた残念な人は名前も顔も世間に知られた上に、多額の賠償金を請求されることになるらしい。全く残念な人だ、と思う。
この事件の後、くらコーポレーションの株価はどうなったか?
ニュースが出される直前の株価は5,600円。翌日の2月7日には5,400円まで売られたが、2月8日の終値は5,510円まで持ち直した。最大で-3.5%の下落。週末には-1.6%まで戻っているから今のところ被害は軽微だと言える。
もちろん今回の事件で売り上げが下がり利益が下がれば、株価もそれにつられて下がるだろう。社員や株主にとっては「残念」では済まされない。
今回の事件の後、
「くらコーポレーションの株を空売りした後で、バカなバイトを焚きつけてあの動画を投稿させたんじゃないか?」
という説が流れていた。3%程度の利益のために犯罪行為の黒幕になるのはリスクとリターンが合わないし、その説が真実である可能性はほとんどない。
でも、ちょうど信用取引の話を書いていた流れもある。今回のような事件を利用して株式市場で儲ける手口について書いてみたい。
株は安い時に買い、高くなった時に売れば儲かる。しかし株価がどんどん下がっていく時にも儲ける方法がある。あらかじめ株を売っておいて、安くなった時に買い戻せばいい。
なぜ持っていないものを売って、あとで買うなんてことができるのか?
他の人から株を借りてきて売り、安くなった後で買い戻して返せば可能になる。
株を借りてそれを売ることを「空売り(からうり、と読む)」と言う。空売りは、前回書いた信用取引のひとつだ。
信用取引の買いはお金を借りて資金以上の株を買う方法だが、信用取引の売りは株を借りて先に売る方法だ。やり方は以下の通り。
まず信用取引の口座にお金を振り込む。そのお金を担保にして株を借りる。今回も手持ちの現金は30万円としよう。
買う時と同じように、30万円のお金を担保にすれば100万円までの株を借りることができる。この100万円分の借りてきた株を売れば、100万円の現金が手に入る。
100万円の株が予想通り30%下がれば、70万円になる。70万円になったところで買って、借りていた株を返す。100万円で売った株が70万円で買い戻せる訳だから、手元に30万円が残る。この30万円が儲けだ。30%下落でも、空売りを使えば手持ちの30万円が60万円になる。
空売りは、株価が下がるときに儲ける方法なのだ。
くらコーポレーションの株を空売りしておいて、その後でバカなアルバイトにバイトテロを起こさせる。バイトテロの結果、株価が下がる。下がった所で買い戻せば、無事お金を儲ける事ができる。
最初に書いた「くらコーポレーションの株を空売りした後で、バカなバイトを焚きつけてあの動画を投稿させたんじゃないか?」という説は、以上のような理屈で成り立っている。
この手の噂はいろいろなニュースと共に流れる。例えば2年前。北朝鮮のミサイルが発射された時、日経平均は160円ほど下がった。
ミサイルの発射の日時は北朝鮮の金正恩が自由に決める事が可能だ。ミサイル発射で日本の株価が下がることは間違いないので、日本の株を空売りしとけばいい。リスクなしで儲ける事が出来る。
「金正恩は日本株の空売りやFXでミサイル開発費を稼いでいる」
そういう噂が流れていた。いや、噂というより冗談か。
さてこの空売りだが、予想に反して株価が上がった場合、損をする。
100万円分の株を売っていた場合、売った株が30%上がれば、130万円になった株を買って返さなければいけない。初めに株を売って得た100万円に手持ちの現金30万円を足して買い戻すので、残金はゼロだ。やはり一発で退場となる。
売った株が暴騰して倍になった場合、200万円になった株を買って返さなければいけない。100万円の損失となるため、30万円が消滅した上に70万円の借金を負うことになる。
売った株がストップ高を連発して3倍になった場合、損失は200万円で借金は170万円となる。5倍になった場合、借金は370万円だ・・・。
理論上、空売りの損失は無限大になってしまう。
株に関することわざで、
「買いは家まで、売りは命まで」
というものがある。
「信用取引の「買い」なら失敗して借金しても家を取られる程度で済む。でも「売り」で失敗した場合、命まで取られるほど大損する可能性がある」
という意味だ。
そんな訳で、信用取引の乱用は控えた方がいい。金正恩に関する冗談のひとつとして、ネタとして使う程度にしといた方が安全だろう。
少なくとも「ど素人」が手を出していいものじゃないと思う。
いったいどんな本だろう。